基本コンセプト
IrisBooks を理解するための考え方を手短に巡ります。これらが腑に落ちると、 CLI も Web アプリも自然に使えるようになります。
ファイルがあなたの帳簿
隠れたデータベースはありません。帳簿はディスク上のフォルダであり、その中の ファイルが会計記録そのものです。あなたはそれを読み、編集し、差分を取り、 バックアップし、普段使っているどんなツールでも税理士に渡せます。IrisBooks (CLI と Web アプリ)は、そのフォルダを見る2つのレンズにすぎません。
1帳簿 = 1事業です。副業を持つ個人事業主が帳簿を2つ持つのは普通のことです。
your-book/
├── config/
│ ├── book.yaml # 識別情報・地域・会計年度・通貨
│ ├── chart-of-accounts.yaml # 勘定科目
│ └── rules.yaml # 任意の分類ヒント
├── raw/ # 元資料(CSV・PDF・領収書)
├── journals/<fy>/<mm>/ # 1仕訳 = 1 Markdown ファイル
├── assets/YYYY/ # 固定資産(減価償却用)
├── notes/ # 作業ノート・todo・方針・パースキャッシュ
└── compiled/ # AI 生成レポート(再生成可能)
全レイアウトは 帳簿ファイル形式リファレンス に。
仕訳 — 取引
すべての取引は1件の仕訳で、journals/<fy>/<mm>/YYYY-MM-DD-<取引先>-NN.md
(会計年度、次に日付の暦月 — 暦年会計の帳簿なら日付の数字をそのまま
写すだけ)に YAML ヘッダ付きの Markdown ファイルとして保存されます。
複式簿記なので、借方と貸方は必ず一致します。
---
date: 2026-05-04
payee: EXAMPLE.COM
status: draft
lines:
- account: 資産:売掛金
debit: 89790
- account: 資産:事業主貸
debit: 10210
- account: 収益:売上
credit: 100000
---
EXAMPLE.COM のリデザイン案件、5月分の請求。
--- の下のテキストは自由記述です。取引が起きた理由を書きます。ファイル名は
その仕訳の恒久的な識別子で、ステータスが変わっても変わりません。
勘定科目 — 勘定科目表
勘定科目は config/chart-of-accounts.yaml にあり、それぞれ階層パス
(資産:普通預金、費用:消耗品費)と種別(資産 / 負債 / 資本 / 収益 / 費用)を
持ちます。仕訳はパスで科目を参照します。科目の「通常残高がどちら側か」は種別から
導かれるので、自分で宣言する必要はありません。
科目にはエイリアスを付けられ、別の言語や短い名前で参照できます。仕訳の中で
新しい科目パスを勝手に作らないでください。先に勘定科目表へ追加します(あるいは
AI に notes/open-questions.md で提案させます)。
ステータス — 仕訳のライフサイクル
すべての仕訳は status を持ちます。
| ステータス | 意味 |
|---|---|
draft | 下書き。入力中、またはまだ不確実。まだ帳簿には載っていません。 |
posted | 記帳済み。レポートに載るのは posted のみ。 |
最も重要なルールがこれです。iris balance・損益計算書・貸借対照表に含まれる
のは posted の仕訳だけ — 下書きは、記帳するまで各種レポートや残高に反映
されません。昇格は iris post かフィールド編集で行います。
(このほかに closed というステータスも目にします。これは日付が締め済み
会計年度に入っている仕訳のことです。ファイルには保存されない導出値で、Web
アプリ・iris search・リモートコネクタのすべてがこれを表示します。年度を
再オープンすると、保存されている本来のステータスが再び見えます。Web アプリでは
さらに、未完了下書きを示す incomplete マーカーも表示されます。)
レポートは計算結果であり、保存されない
IrisBooks は「貸借対照表ファイル」を保存しません。レポートは、要求のたびに posted 仕訳から導出されます。
- 試算表 —
iris balanceまたはiris report tb - 損益計算書 —
iris report pl - 貸借対照表 —
iris report bs - 科目別の元帳 —
iris report ledger --account …
計算結果なので、常に元の仕訳と整合します。Web アプリは同じレポートをグラフィカル に描画し、それぞれ CSV に書き出せます。
元資料と相互参照
raw/ 配下のもの — 銀行CSV、領収書写真、PDF 請求書 — は仕訳の証憑です。仕訳は
attachments で出所を指し、そのリンクは双方向にたどれます。
- 仕訳から、それが引用する資料を見る。
- 資料から、それを引用する仕訳を見る(
iris show <path>、または Web アプリの 元資料ブラウザの「引用元」パネル)。
この双方向の相互参照は、日本の優良電子帳簿が求める3要件の1つです。 日本の税務・コンプライアンス を参照。
同期 — 3つの働き方
同じ帳簿は3つの形態で存在できます。「モード」を選ぶのではなく、機能を多く使うか 少なく使うかの違いです。
- オフライン。 ファイルのみ、サーバーなし、アカウント不要。検証・レポートを ローカルで行います。プライバシー最大、ネットワーク不要。
- ファイル + クラウド。 ローカルファイル + クラウドミラー(
iris api loginでサインイン)。ローカルで編集し、iris syncで push / pull します。 Web アプリ・複数端末・共同作業・タイムスタンプ付き履歴はクラウド側にあります。 - クラウドのみ(税理士に多い)。 ローカルフォルダなし。Web アプリで サーバーに対して直接作業します。
同期は明示的です。あなた(または AI)が iris sync・iris post を実行するか、
アプリの Sync を押すまで何もアップロードされません。裏で勝手にファイルを送る
ウォッチャーはありません。ノート PC から同期する事業主と、Web アプリで作業する
税理士は、同じサーバー帳簿で出会います。
年度の締め(Seal)— 年度を「見える形で」ロックする
年度末には会計年度を締めます(iris api seal)。サーバーが「誰が・いつ・どの期間を
締めたか」を記録し、その期間をロックします。締め済み年度への書き込みは、
どの作業面でもすべて拒否されます。iris post はローカルで拒否し、同期の push は
サーバーが拒否し、Web アプリとリモートコネクタでの編集も拒否されます。年度内の
仕訳はどこでも closed として表示されます。
締め済み年度を修正するには iris reopen で再オープン
します。締めのロックが解除され(書き込みが再び受理され)、再オープン中の編集は
すべて締め後の編集として監査証跡に恒久的にフラグ付きで残ります。一度締めた
年度に後から手を入れても、「手を入れていない」ように見せることはできません。
修正が終わったら再度締めます。新しい締めが古い締めを監査チェーン上で
引き継ぎます。締めはその年度のダウンロード可能なアーカイブスナップショットも
作成します。作業ツリーのファイルはそのまま残り、一切変更されません。
年度締め を参照。
恒久的な履歴(訂正・削除の履歴)
クラウド同期を使うと、サーバーが全ファイルの全変更を追記専用ログに保持します —
誰が、いつ、変更前は何だったか。これが優良電子帳簿で日本の法令が求める
訂正・削除の履歴です。iris api history、または Web アプリの
アクティビティタイムラインと仕訳ごとの履歴パネルで確認できます。
ローカルの git 履歴はこれには該当しません。監査人が信頼できるのはサーバー側の 記録だけであり、これが恒久履歴がクラウド側にある理由です。
2つのレンズの比較
| CLI + 自分の AI | Web アプリ | |
|---|---|---|
| 向いている人 | ファイルファーストの事業主、自動化 | GUI 派の事業主、税理士 |
| 編集 | AI がファイルを書き、あなたがレビュー | ブラウザのフォーム |
| オフライン動作 | 可 | 不可(サーバー必要) |
| レポート | iris report …(テキスト/JSON) | 描画 + CSV |
二者択一ではありません。多くのユーザーは両方を使います。CLI + AI で素早く 入力し、Web アプリでレビュー・レポート・共同作業をします。
次へ: CLI と自分の LLM で記帳する または Web アプリを使う。